中学校で教師をしているという女の先生が弁護の依頼にやってきました。保護者の父親と不倫をして母親にそのことがわかってしまい慰謝料として三百万円要求されているという依頼内容でした。
「いきさつを詳しく話していただけえますか?」
「はい、受け持ちのクラスのある男子生徒の保護者の父親と頻繁に会うようになったのは昨年の春からのことです。教員と保護者が面談をするときには、母親が来るのがふつうです。でもOさんはその男子生徒の父親でした。奥さんは外に働きに出ていて、ご主人は内装関係の作業するお仕事だったので、自然にそうなったと説明されました。『妻が教育熱心で息子の進路について、よく相談してもらえって』恥ずかしそうに、Oさんはそうおっしゃいました。その様子がなんだかかわいらしくて、今思えば私ははじめからOさんに好感を抱いていた気がします。Oさんは息子さんの成績のことを大変心配していて、多い時には月に数回も私に面談を求めてきました。もちろん。このような保護者の方の相談に応じるのも教師の大切な仕事のひとつです。何度か面談を重ねるうちに、校外でふたりで会うような機会も出てきました。あくまでも食事をしながら雑談をしたり、という程度です。仕事柄なのか、Oさんは年齢よりもずっと若くてオシャレでした」
「お二人の年齢を教えていただけますか」
「四十五歳です。二人とも同じ歳です」
「その続きをお話ください」
「はい、はっきり言って、異性として魅力的だったのです。でも私に変な下心があったわけではありません。Oさんからお酒に誘われたことも一度ありましたが、お断りしました。あくまで、保護者と教師という一線を越えるつもりはなかったのです。それでも何度かお話するなかで、いろいろOさんに関することも知りました。Oさんが私と年令が同じで、結婚してからの年数も同じであること、さらに出身地も近くだったということ。そんな情報を知ると、なんとなく他の保護者の方よりも親近感を覚えてしまうのは、どうしようもないことでした。特別な感情を持ってはダメだと自分に言い聞かせていることに気づいて、はっとしました。そして二か月前のある日、事件は起こってしまったにです。その日の朝、私は自分の夫とささいなことで口論になってしまいました。日頃のうっぷんをお互いにぶつけ合い、最悪な気分のまま職場である学校に向かったのです。そして、この日の放課後も、私はOさんと面談する約束を入れていました。夫とのことで心にわだかまりを残したまま、私はOさんい会いました。そんな私の様子がいつもと違うことに、何度も会っているOさんはすぐに気づきました。私はためらったものの、夫との出来事を正直に話しました。気が付くと私はなんの関係もないOさんに向かって、延々と夫への愚痴を垂れ流していたのです、私は自分の醜態に気づいて赤面しました。私が謝るとOさんも伏し目がちになって、言いました。なんとOさんも、奥さんと不仲だったのです。Oさんの口から性生活のことまで語られて、私はドキンとしました。私とお話することが癒しだと言ってきました。寂しそうにそうつぶやくOさんに、急激に心が惹かれていくのを感じました。面談が終わってOさんが帰るとき、私は勇気を出して、今日、お酒を飲みに行くませんかと誘ってしまったのです。こうして私はその日、初めてOさんと二人きりでお酒を飲んだのです。わざわざ二駅先の、学校関係者が絶対にくることのないお店に入り、それでも二人でまわりを気にしながらお酒を飲みかわしました。学校から離れた場所になると、話す内容もさらに赤裸々になりました。なんとOさんの奥さんが会社の同僚と浮気をしているというのです。私はOさんに仕返しに浮気をすすめました。そうするとOさんは相手がいないと言いました。私はそのとき、テーブルの下で熱くてごつごつしたOさんお手を握りしめたのです。そして店を出たOさんと私は、そのままホテルに入ってしまったのです。それからというもの、週に一度はホテルで密会していました。そんなある日、Oさんの奥さんから手紙が来て慰謝料を払えと言ってきたんです。私とOさんがホテルに入る写真も同封されていました。私のお話しすることは以上です。慰謝料払うお金なんかありません」
「よく詳しくお話してくださいました。Oさんの奥さんも浮気しているなら同罪でしょうが、浮気しているとは口が裂けても言わないでしょう。逆に脅迫されているということになります。心配しないで安心してください。慰謝料を取り下げますから」
「よろしくお願いします。学校にも知られないようにお願いします」
中学校の先生はそう言って帰って行きました。
「いずみ、話を聞いててどう思った?」
「そうですねぇ、学校の先生ってそういう話よくあるのかしら。お互い寂しいのが重なってしまったんですね」
「教区委員会沙汰になったら大変だから早く解決しないとね」
「先生は浮気はしないでくださいよ!わたしだけにしてくださいね!」
続く