今日は、クリスマスイブの土曜日で箱根のユジンの家で過ごすことになっていました。私は銀座のデパートでクリスマスケーキとクリスマスプレゼントにルビーのネックレスを買いました。
駐車場で私の車が来るのを待っていると、メールが届きました。ユジンからのメールでした。
『今日、宴会の急なお座敷に行かなくてはならなくなりました。家に入って待っていてください。九時までには帰ります。』私は仕方なく事務所に戻って五時まで仕事をすることにしました。今年も残り少なくなりました。年末の大掃除もしなければなりません。二十九日から事務所は冬休みになりますので二十八日に大掃除にしました。その旨をいずみにも連絡しました。いずみは了解しました。私は段ボール箱に一年間の不要の書類、一年間の雑誌類を、もう容赦なく放り込みました。この捨てる作業が面白くて熱中するうちに五時になりましたので箱根のユジンの家へとむかいました。
箱根湯本に着いたのは八時を過ぎていました。ユジンの部屋には灯りがついていましたが、カギは閉まっていました。私は合鍵で中に入りました。リビングにはホットカーペットが敷かれテーブルはこたつに模様替えされていました。私はこたつに入り、ユジンの帰りを待ちました。
「ただいま!じゅんさん。ごめんなさい。お腹すいてるでしょっ?急いで支度します!」
ユジンはまだ着物姿でした。時刻は九時を過ぎていました。
「ユジン、外に食べに行こうよ。疲れているんだし、これから作るんじゃ大変だよ。」
「いいかしら?レストラン少し遠いの。」ユジンは普段着に着替えました。
私たちはユジンの車でレストランに着きました。
「今日は団体客でね、忙しかったの。それでね、一人のお客さんがわたしのこと良い人相している、と言って手相を見てやると言って強引に私の手を握ってきたの。他のお客さん達も見て貰え見て貰えって言うので仕方なく。そうしたらね、あなたは、これから好きな人が現れて、二年後に結婚するが五年後に離婚するって言うの。周りの人たちは驚いていた。占いが当たると言うよりも普通は人は先の事はわからないのに、先のことがわかるその人に驚いていたみたい。なることはなるし、ならないことはならない、このことなら今のわたしだって、はっきりわかるわよね。当たるか、当たらないかそれこそが関心事よね。自分がこの先どうなるか、それを知りたいし、それを知ることで、安心したり不安になったり、先にそれを知ることで、それを変えられるわけでしょう。酔っぱらっていた人だから仕方なく、ありがとうございますって言ったの。」
「先のことを知ったところで、生きているのは常に今なんだから、先のことを知ろうが知るまいが同じだよ。」
料理がテーブルに出されてきました。
「メリークリスマス!」と言って私たちは乾杯しました。
私は今日買ってきたネックレスをユジンにプレゼントしました。ユジンは喜んでさっそく自分の首につけました。
「わたしもジュンサンにプレゼントがあります!開けてみて!気に入ってくれるといいのだけれど。」
それは手編みのマフラーでした。「ありがとうユジン!マフラー持ってなかったんだ。」私もさっそく首に巻きました。温かくユジンの愛情のこもったマフラーでした。
「ユジン、クリスマスケーキも買ってきたんだよ!帰って食べようよ。」
私たちはまたユジンの運転で家に着きました。
ケーキを食べながら私はユジンに尋ねました。
「ユジン、今芸者さんの収入はいくらくらいあるの?」
「多い時で月に十五万円くらいです。」
「じゃあ、今月から二十万生活費として入れるね。」
「ジュンサンがこうして来てくれるだけで幸せです。」
「お妾さんでいいのでしょ?僕が生活費を入れるのはあたりまえじゃないか!」
「ありがとうございます。ジュンサン。」
「ユジンが芸者さんをやめるというならもっと生活費出すからね!」
「わたしは幸せ者です。ジュンサン。」喜びがユジンの心にいっぱいにしているのを感じとれました。
「ユジン、寝ようか。寝ながらお話しよう。」
ユジンは私のパジャマを出し布団をひきました。
「ジュンサン、お風呂はどうなさいます?」
「明日の朝入るね。ユジンは?」
「わたしはお座敷に出たのではいりますね。ジュンサン先に休んでください。」
「最近よく眠れなくてね、眠っても二時間くらいで目が覚めてしまうんだ。」
「お仕事で神経を使っているからでしょう。わたしの睡眠剤おのみになりますか?」
事実、仕事のことで神経をすり減らしていました。
「一錠もらってみようかな。」
私は睡眠剤をもらって飲みました。
「すぐに眠くなりますよ。お布団に入ってください。」
ユジンはそう言うと化粧をおとし風呂に入って行きました。
私は布団に入り、ユジンが風呂から出るのを待っていましたが、いつの間にか眠ってしまいました。
翌朝、目覚めるとユジンは私の布団の中にいました。私がユジンの唇にキスをするとユジンも目を覚ましまた。
「ジュンサン、おはようございます。よく眠れました?」
「ぐっすり眠れたよ。」私たちは再びキスをしました。
「わたし寝坊してしまいました。ご朝食パンでいいかしら?昨日忙しくて何も買ってきてないんです。」
「昨日の残ったケーキでいいよ。」
「今すぐ作りますね!」ユジンはパジャマのままキッチンに入って行きました。私も起きてこたつに潜り込みまた。
「パンと目玉焼きとハムとサラダだけですけれど。」こたつの上に並べられました。
「コーヒーと紅茶どちらにします?」
「コーヒーを貰おうかな。」
「今日はこれからどうなさいます?」
「東京に帰るね。」
「今度いつ来てくれます?」
「正月あけかなぁ」
「箱根神社につれてってください!」ユジンは子供のように喜んで言いました。
私は食事を終えると着替えて用意してきた二十万の入った封筒をユジンに手渡しました。ユジンはまたお礼を言いました。私たちは抱き合いキスをしました。
「ユジン、マフラーありがとう!また来るね!」と言うと車の止めてある駐車場まで行くとユジンは言いました。私たちは手を繋いで歩きました。車に乗り込みユジンに手を振りました。ユジンはバックミラーに見えなくなるまで手を振っていました。
昨夜ユジンを抱けなかったのではなく抱かなかったのでした。それには理由がありました。いずみとの抱擁があまりにも頭に焼き付いていたからです。
続く