その日は、あいにくの雨でした。K子は傘をさして、待ち合わせ場所に立って待っていました。車に乗るとK子は、
「お兄ちゃん、今日はごめんなさい」と、私たちが最初の日に会った時とは違うなにか一寸きまりの悪そうな微笑み方を私に見せるのでした。
「わたしからお願いして一緒に行ってもらうことになったのに、もうあのお寺に行くのやめようって思って・・・」
「何でまた急に行くのやめたの?」と私が尋ねるとK子は話を続けました。
「パパのことなんだけどね、家にお金さえ入れてくれれば浮気しようがしまいがどうなってもいいって思えてきたの。下着だってもう一緒に洗ってないし、お風呂もあの人が入った後はお湯を入れ替えているの。ご飯の時は仕方がないから一緒に食べているけれど、口もきいていないし、寝るときも別々の部屋に寝ているの。もう、顔を見るのもいやなのよね。」と言ってきました。それはあたかも目に見えない毒薬のように、生理的な作用さえも及ぼしてくる、最も堪えがたい種類の嫌悪感でした。「養育費さえくれれば離婚も考えてるの」K子の言葉は怒りで震えていました。自分で自分の興奮が抑えられない様子でした。私はK子に「養育費っていったって、パパの収入から考えるととれても数万円だよ。後は慰謝料で不動産を貰うことだね」と言うと「そうなの?」「だったら離婚しないでもっと家に入れるお金を増やして貰うように話すんだね。夫婦間贈与の特例っていうものもあるし。」私は言いました。
「しかたないはね。我慢します。」とK子言いました。
続く