次の日、ユジンからメールが届いたのは午前十時でした。
『今、病院終わりました。予想していたとおり、がんでした。ジュンサンが言っていたように国立がんセンター中央病院の紹介状をたのみました。それを受け取ったらどうしたらいいですか?』
私は、紹介状を持って朝一番でがんセンター中央病院に行くから、朝七時に新宿駅で待っていることを伝えました。
翌朝、病院についたのは八時でした。私は初診受付から用紙をもらいユジンに記入させました。他にも同じように初診で来ている人が何人もいました。ユジンは書き終えると「あーあっ、ジュンサンに私の歳がばれちゃった。」と恥ずかしそうに言いました。用紙を受け取り記入漏れが無いかを私は確認しました。ユジンの歳など気にもしていませんでしたが、生年月日の欄を見て逆算して計算するとユジンはまだ二十九歳でした。私は、その用紙と紹介状と伊東の病院のユジンの病状の入った資料を受け取り受付に出すと、四階の診察室の待合室に行ってお待ちくださいと言われましたので私とユジンはエレベーターに乗って待合室に行きました。もう既に患者さんが何人か診察を待っていました。私と同じように付き添いに来ている人がいて婦人科にも関わらず男性も何人か座っていました。三十分くらい経ったでしょうか、私は昨夜仕事の書類作成で一睡もしていませんでしたので睡魔が襲ってきて一時間ほど眠ってしまいました。「森崎さん、森崎麗子さん。二番診察室にお入りください。」ユジンは「ジュンサン!私の名前が呼ばれた。」と言って私を起こしました。私たちは診察室に入って行きました。医師は「担当になります中野です。どうぞおかけください。」と丁寧に言いました。私とユジンは医師の横にある椅子に座りました。医師は資料を暫く見ると「取り残しがあったかもしれませんね。」と言うと専門用語で説明し始めました。早期のがんで非浸潤がんで、炎症性乳がんでないこと、病変がちいさいこと、手術も化学療法も必要が無いが放射線治療をします。と言いました。非浸潤癌は治療するというのが国際的なコンセンサスになっているので放射線治療が必要です。そう言って携帯電話を取りだしてどこかに問い合わせしていました。電話をまた机の上に置くと「幸いにも今病室が空いているそうです。明日から入院でもよろしいですね。」ユジンは「明日からですか!」と驚きました。私は「はい、大丈夫です。宜しくお願いします。」とすぐに答えました。「病室は七階になります。詳しくは明日入院窓口で聞いてください。じゃあ今日はこれで。」と言いました。私は用意してきた五万円の入った封筒を取り出し忍ばせて医師に渡しました。医師は「お心遣いありがとうございます。」と言って封筒を資料の間に入れました。
「ユジン、今日は入院の支度でいそがしくなるよ!」
「大丈夫、いつ入院してもいいようにまとめてあるの。」
「明日九時に新宿ね。ユジンを病院に送り届けたら仕事に戻って、また夕方様子を見に来るから。」
「ごめんね、ジュンサン。迷惑ばかりかけて」
「気にするなよユジン、ユジンのことを大切に思っているから」
ユジンは優しい言葉をかけてくれたのでやみくもに涙が溢れて困った様子でした。
ユジンを病院に送りとどけた日の夕刻再び私はユジンに会いに行きました。
「恥ずかしいなぁ、ジュンサンにすっぴんの顔見られちゃう」と顔を手で隠しました。
ちょうど夕飯の時間だったようで食器がベットの横のテーブルに置いてありました。食器にはまだご飯が残っていました。「ユジン、もう食べないの?」と聞くと「うん、なんだか食事がすすまないの。」
「じゃあ、お腹が空いてるから食べちゃうよ。」私はユジンの残りご飯を食べました。ユジンの顔は喜びに輝いていました。
こうしてユジンの入院生活が始まったのです。
続く