大学時代の同窓会がありました。同窓会と言っても仲の良かった七人が集まる小さな会でした。場所は箱根湯本温泉に一泊して翌朝ゴルフでした。しかし私は翌日仕事が入っていましたのでゴルフはキャンセルしました。皆と顔を合わせるのは七年ぶりで頭が薄くなった者もいれば離婚して独り身になった者もいて七年の歳月の長さを感じました。私たちは夜の宴会まで温泉に入ったり麻雀をしたり楽しい時を過ごしました。
お料理のご準備できましたので宴会場にお越しくださいと、声がかかり私たちは宴会場にむかいました。幹事の柳原が「今日は、芸者衆を五人呼んだから楽しくやりましょう」と言いました。宴会場で芸者衆に迎えられ私たちはそれぞれ自由な席に座りました。私の乾杯で宴は始まりました。私は飲めないのでひたすら料理に専念していました。すると一人の芸者が私の横に来て「お飲みにならないのですか?」と言うので「アルコールはだめなんです」と答えました。「私もこういう仕事はしてますけれど飲めないんですよ。おジュースかウーロン茶お持ちしますね」と言ってウーロン茶の瓶を二本持ってきました。グラスにウーロン茶が注がれると「美鶴と申します。初めまして、宜しくおねがいします。」私たちは乾杯しました。私は名刺を渡されました。その時初めて顔をよく見ますと誰かに似ていました。もう一度思い出しながら顔をまじまじと見つめました。「そんなに見つめないで、恥ずかしい」私はその笑顔で思い出しました。『冬のソナタ』のユジンにそっくりなのに気づき「冬のソナタのユジンに似てますね!」と言うと「チェ・ジウさんでしょ、よく言われるんです」と、恥ずかしそうに顔を赤らめました。周りは酒に酔った勢いで芸者衆をからかったり笑い声で騒然としていました。私と美鶴は『冬のソナタ』の話や生まれの話などで会話が弾みました。「お名刺をいただけますか?」と美鶴が言いましたが浴衣に着替えたので今は無いと答えると「どんなお仕事をなさっているんですか?」と聞かれたので「弁護士なんです」「まぁすごい!何でも知ってらっしゃるからそうじゃないかと思いました」美鶴の緊張がにわかに弛み、ほっと息をつくと一種の安堵の色のよみがえる顔を見せました。美鶴は私の事務所のそばの浅草に鬘をよく頼みに行く話や東京のどこの店が美味しいとか良く知っていました。私と美鶴はすっかりと打ち解けました。宴もお開きとなり、私たちと芸者衆はカラオケに行くことになりました。
美鶴は私のそばから離れようとはしませんでした。デュエットで私たちも一曲歌いました。そしてダンス曲がかかると美鶴は私の手を取り踊りました。「近いうちに東京にいきます。その時またお会いしてもよろしいですか」と私の胸に顔を埋めて呟くように言いました。私は、私の携帯番号とメールアドレスを紙に書いて渡しました。美鶴は大事そうにバックにしまいました。こうして同窓会も終わりとなり私はもう一度温泉に入って眠りました。
それから間もなくのことです。私の携帯に美鶴からメールがありました。「明日、東京に行きたいと思います会ってくださいますか?」「はい、楽しみにしています。何時ですか?」「11時30分に新宿に着きます」私たちは新宿で待ち合わせました。
私は車を新宿駅近くに止め、美鶴の来る小田急線の改札にむかいました。美鶴はももなく来ました。着物を脱いだ顔はまさにチェ・ジウそのものでした。車に乗って、行き慣れた浅草で食事をとることにしました。車の中で私たちは会話にはずみました。美鶴さん、と私が言うと本名は森崎麗子だと名乗りました。そして思わぬ告白を麗子から聞きました。それは「私ね、癌を患ってお乳が片方ないの」突然の話に私は驚いて声をたてようとしましたが咽喉が塞がって何も言うことができませんでした。
続く