「生理がこないの」とY子に告げられて、それは妊娠を意味すると私は思いました。ついさっきまでの、温かい、和やかな気持ちもじきに消え失せて湯冷めと共に冷たい、陰鬱な気持ちが襲いかかってきました。Y子と初婚で結婚しているのならどんなに嬉しいことでしょうか。しかし、Y子にも私にも既に家庭を持っていて、しかもY子は40歳を過ぎていることを考えると、何もかも自分の責任のような気がされて、私は気が鬱ぎました。「心配しないで」とY子はその柔らかい手が、私の首に抱きつかなかったなら、私はおそらくこの憂鬱な気分の中にいつまでもとざされていたことでしょう。私はY子を抱けませんでした。心配が先にたち、いてもたってもいられない気持ちになりました。私はとっさに妊娠検査薬があることに気がつきました。「薬局に行こう妊娠検査薬を買いに行こう」と言うと「大丈夫よ。」と言うY子を無理矢理に連れて行きました。「一緒に店に入るのは恥ずかしくて嫌。」とY子は言いました。私は一人で妊娠検査薬を買い求めると店員は、早期妊娠検査薬と一般の妊娠検査薬がありますというので、両方買いました。「尿をかけるだけでいいそうだよ。」と説明書を読んで言い、私はますます心臓をしめつけられるような息苦しさを覚えました。自分の言葉が空中に吸いとられて行方不明になったような何かおちつかない心地でした。Y子が妊娠検査薬を持ってトイレから戻ってくるまでの時間は、それはそれは長く長く感じました。私の気持ちがY子に通じないと同じように、待たされる身になっていくらじれったくても仕方ありません。私がやきもきしているところへY子は戻ってきました。「どうだった?」と私が尋ねてもY子は答えません。じれったくて仕様がなくなって私は自分の唇を噛みました。Y子はそんな私を見てか、告白でもする人のようなため息をついて「安心して、両方とも陰性だったよ!」と満面の笑顔で言いました。私は思わず万歳と叫びたい気持ちになりY子の手を握りしめました。もうこのような心配は二度とかかえてはならないとつくづく反省しました。もしこれが現実となり子供ができたことを思うと恋どころではない苦しみいがいほかならなくなると強く自分にいいきかせました。T子との関係も同様、T子はまだまだ若い。それゆえいっそう気をつけなければならないと心に誓いました。

続く