T子はわかれぎわに、ラフランスの入った包みを大事そうに両手に抱えて私の車が見えなくなるまで見送ってくれました。T子の「主人とは二度しかセックスしたことないのよ。」と言った告白がたとえ嘘であれ、女として、異性の誰からも本当に愛されたことが無いと思うことは淋しいことだと思いました。私は、まだ出会って間もないT子のことが、恋しくて、すぐにも飛んで行きたいと思ったことが幾度あったか知れません。他人の誰よりも私はT子を愛してやる、という気持ちになりました。それは、いいしれない慈念へのいとしさかも知れません。不意に、それは衝動のように烈しく、T子を今一度抱いてやりたい切ない思いにかられました。それが恋というものなんだと思うと胸に動悸をうちはじめていました。Y子とT子という美人でしかも気立てのいい二人と出会えたという喜びを得て、急に世の中が明るくなったような気がしました。翌朝、日により、あるいは光線によって、起き抜けの顔がすらりと晴れて見えると、私はその日一日、正しい心で暮らせる瑞相のような喜びを感じました。

仕事を午前中で終わらせ、ランチにY子を誘いました。フカヒレのランチが食べたいと言うので恵比寿駅に車を走らせました。Y子と出会って5年になります。最近ではわがままも言うようになりました。私はそんなちっぽけなわがままに応えてやれることもうれしさの一つでした。それでも、Y子は「何もしてくれなくても、あなたとこうして食事できるだけで楽しいの」そういって喜んでいました。店のエレベーターの中で私たちはキスをしました。

店を出て私はY子のショッピングに付き合いました。Y子はフラダンスを習っています。発表会は年に二度ほどありますが、私はそれを観に行ったことがありません。Y子の知人に私が来ていることがわかると私たちの関係がわかってしまうから絶対に来ないでね。とY子は常に言っています。私たちの関係に神経をとがらしている意味がわかります。私は恵比寿のホテルにY子を誘いました。Y子は黙って着いてきました。部屋の中でキスをすると、Y子は「心配事がすこしあるの」と言ってきましたので「言ってごらん」と私が真剣なまなざしで聞きました。するとY子は「生理がこないの」と呟きました。この瞬間、私の頭の中にパッと閃くものがあり、忽ち顔色が青くなるのを感じました。

続く